Friends08: Yuji Hara Interview Part2

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ヨシオクボにゆかりのあるクリエイターや、様々な分野のオピニオンリーダーらと、デザイナーの久保嘉男が対談する「FRIENDS」。3D業界で30年以上のキャリアを持つ業界の草分け的存在であるケイズデザインラボ代表・原 雄司氏との対談後編となる今回は、3D技術が変え得る服づくりの未来について、お互いの意見を交わし合った。

3Dデジタルツールを支える技術
久保:僕らの服づくりの工程でも、最近はスライダのサンプルなどが3Dプリンタでつくられていることはあるのですが、スライドやボタンひとつとっても、質感というのは非常に重要です。プロダクションレベルで考えた時に、どれほどのクオリティのものができるのかというのはひとつの課題になりそうですし、3Dプリンタで出力したものを研磨する技術なども求められていきそうですね。

:おっしゃる通り、仕上げの技術についてはまだまだこれからです。日本の技術力をもってすれば、いまその辺りに力を入れていけば圧倒的なシェアが取れるはずなんですが、日本はどうしても市場規模などを先に考えてしまうんですね。一方で、中国など国外ではすでに研磨専門の業者が出てきています。また、3Dプリンタで商品そのものをつくるのではなく、反転させて型の方をつくるということもできます。最近はその手法で工芸品をつくったりもしていて、そこであえて3Dプリンタでつくったということは謳っていませんが、このような手仕事とデジタル技術を融合させたものづくりには色々な可能性があると思っています。

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久保:僕は3つのブランドのデザインをしているのですが、いまは自分にしかできないデザインやカットというものを評価して頂き、洋服を買ってくれていると思うんですね。ただ、3Dプリンタ等の技術が発展することで、そうした価値というものがなくなってしまう可能性もありますよね。

:既存のビジネスの形が変わりつつあることは確かですが、最終的にはやはり発想やセンスなのだと思います。例えば、YOYというデザインユニットが、看板などの文字を刺繍でつくるというプロジェクトをやっていたのですが、非常に手間がかかるものなので、受注が重なると対応できなくなってしまうんですね。そこで、我々の3D技術を使い、あたかも刺繍がされているかのようなテクスチャを3Dプリンタで再現するようにしたところ、多くの依頼に対応できるようになり、ヨーロッパなど海外からの発注も増えています。要はこのプロジェクトも最初の発想が何よりも大切で、それを3D技術に置き換えたというストーリーも含め、商品の価値になっているのだと思います。

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YOY × K’S DESIGN LAB「WALL STITCH PROJECT」

久保:3Dプリンタというのは、プロセスを短縮化できることが大きなメリットだと思うのですが、ファッションの世界では、オートクチュールなどにしても時間をかけてつくっているということに価値があったりします。また、洋服好きの人は、手織りのニットという時間をかけてつくられた生地に対して反応するところがあると思うのですが、3Dプリンタによってプロセスが簡略化されてしまうと、一体どうなるんだろうという疑問もあります。

:我々のポジションというのは、ファッションにおけるパタンナーのようなものなんですね。これはあまりフォーカスされないのですが、3Dスキャンをしたとしても、全自動でデータができるわけではなく、そこにはかなりセンスと技術が必要なんですね。うちでは、3Dデータを扱うスタッフをオペレーターとは言わず、「デジタル・スカルプター(彫刻家)」と呼んでいて、やはり人によって大きくクオリティが変わるんです。要は道具が変わっただけで、これからもものづくりが人間中心であるということは間違いないし、すべてが自動化されてしまったら我々も商売になりません(笑)。今度、カルチュア・コンビニエンス・クラブが蔦屋家電という新しい業態を二子玉川でスタートさせるのですが、我々もそこに協力していて、3Dデータをつくるということも職人の技であるというストーリーを伝えるための試みも行う予定です。

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ファッションにおける3D技術の活用法
久保:なるほど。そういうお話をお聞きすると、3Dプリンタに対する意識がだいぶ変わりますね。僕らファッションの世界の人間は、こういうことに気づかずに洋服ばかりつくってしまいがちなので、かなり取り残されてしまっているのかもしれません…。

:無理に3Dプリンタを使う必要はないですが、3D技術全体を見ると面白いものはたくさんあるし、何かをつくろうとした時に、これらの技術を活用することで形にできるものもあると思うんです。例えば、最近家電業界の人たちは、ウエアラブルデバイスの流れで、次はファッションだという話になっています。ただ、そうなった時に、家電をどうファッションと結びつけていくと良いのかというのは、やはりアパレルの会社でないとわからないところがある。3D技術についても同じで、3Dプリンタというキーワードばかりが先行するのではなく、各業界の人たちと一緒に使い道を考えていかなければ、先につながらないと思っています。我々としても、高い技術力を持つ日本の企業にいかに刺激を与え、3D技術への興味を誘発させられるかということを考えながら、仕事に取り組んでいます。

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YOY × K’S DESIGN LAB「WALL STITCH PROJECT」

久保:実際に今日は色々な刺激を受けることができました。ただ、こうしてお話をしていく中で、実際にどんなものをつくっていけるのかということを考えてみると、なかなかすぐには思いつかないところがありますね(笑)。

:僕は、3Dプリンタでプロトタイプが簡単につくれるようになったことで、まずはつくってみてから考えれば良いと思えるようになりました。業界ごとに慣習や使われる言語というのは大きく異なりますが、そうした相手に対しても、3Dプリンタでプロトタイプを見せると、すぐに伝わるんですね。コミュニケーションツールとしてのモノを簡単につくれるというのは非常に大きいことですし、アイデアをモノとして示してからコミュニケーションが取れるというのは、3Dプリンタの大きな強みだと思っています。

久保:たしかに、実際にここに来て色々モノに触らせてもらうと話が早いですよね。

:例えば、ファッションに直接は関係ないかもしれませんが、3Dプリンタでその人の足に合わせたシューストレッチをつくれば、どんな靴でも自分の足に合ったものに変えられるようになるかもしれないですよね。いきなり壮大な夢を描いたり、逆にこんなことしかできないと考え込んでしまうのではなく、まずは周辺のアイデアから入っていくということでもいいんじゃないかという気がしています。

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K’S DESIGN LAB: www.ksdl.co.jp

The End

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