ヨシオクボにゆかりのあるクリエイターや、様々な分野のオピニオンリーダーらと、デザイナーの久保嘉男が対談する「FRIENDS」。前回に引き続き、4月にオープンしたセレクトショップ「EN ROUTE 二子玉川」で、クリエイティブ・ディレクターを務める沼田真親氏に、アイテムのセレクトにおけるポイントや、店内に併設されたランニングステーション、そして、久保がデザインを手がけ、まもなくローンチするEN ROUTEの「iRON MEDAL ATHLETICS」について話を聞いた。
久保:「EN ROUTE」はスニーカーのセレクトも独特ですよね。どういう基準で選んでいるんですか?
沼田:各スポーツメーカーさんがつくっている膨大なスニーカーの中から何を選んでいくかという時にポイントになるのは、やはり自分たちのコンセプトです。このお店では、スポーツの中でも特に「走る」ということがコンセプトになっているので、それが街でも履けるデザインのシューズだったとしても、基本的にはランニングシューズであるものが大半です。
EN ROUTE 二子玉川
久保:本格的なランニングギアも揃っていて、こうしたラインナップのセレクトショップというのはこれまでなかったですよね。僕もこのセクションが大好きで、銀座のショップに伺った時にもいくつか買わせていただきました。
沼田:久保さんにスペシャル・パッケージのデザインをお願いする時にもお話ししましたが、スポーツメーカーというのは生産ラインの規模が違うので、クオリティが高いものをリーズナブルな価格で提供することができるんですね。そうした相手に正面から勝負しても難しいところがあるんですが、久保さんには、実際にそれを着て走ることができたり、パフォーマンスウエアとして機能するものにしたいというお願いをさせていただきましたよね。アパレルメーカーの場合、スポーティーなマテリアルを使いつつも、最終的には街で着るだけに収まっているウエアが多いのですが、ランニングステーションも設定し、実際に走るお客様がいらっしゃる場所だからこそ、そういう方たちに着ていただけるものにしないと意味がないと思っていました。こういう話を久保さんにした時に、制約があるほどやりがいがあると言っていただけたのはうれしかったです。
EN ROUTE「iRON MEDAL ATHLETICS」 Designed by Yoshio Kubo
久保:デザイナーはみんなそうかもしれないですが、完全に自由にしていいと言われるよりも、お題が決まっている方がつくりやすいところがあるんですよね。今回のようなプロジェクトは、ヨシオクボとはつくり方がまったく違うんですが、最近は自分のブランドでも、例えば「Fishermans Athletics」など最初にキャッチコピーをつくってから洋服をデザインするということをしています。そうしたコピーがある意味お題となるところがあって、今回も「iRON MEDAL ATHLETICS」という名前を先に設定できたことが大きかったかなと。
沼田:コンセプトワークはとても大切ですよね。これからの時代は特にそれが重要になっていく気がしていて、僕たちのようなセレクトショップや小売店にしても、自分たちが寄って立てるものが必要です。それをお客様には強制はしませんが、自分たち自身がしっかりコンセプトやアイデンティティを持っていることが大切かなと。
久保:ランニングステーションもとてもオシャレですね。
沼田:実は銀座店の方がここよりも一回り大きいのですが、どちらも700円で自由に使っていただくことができます。シャワールームは、アルネ・ヤコブセンがデザインしたポーラ社のバスアクセサリーを導入していて、プラス300円でお貸ししているバスタオルもオーガニックコットンを使った今治タオルを使うなど、色々こだわってつくっています(笑)。
久保:これだけの設備がこの金額で使えるというのはすばらしいですね。ところで、このボードの絵は誰が描いているんですか?
沼田:美大出身のお店のスタッフが描いています。その日の気温や、二子玉川近辺のランニングコースなどを描いているのですが、全体的に工業的で男性っぽい空間になっていることもあり、どこかに温かみのある人間的な要素も入れたいなと。それで、お客様とのコミュニケーションを取るためのボードを用意したんですが、描く度に絵が上手くなっていて、もう他の子には真似できないレベルになっています(笑)。
久保:今日は色々案内していただき、ありがとうございました。そういえば、沼田さんもスタッフのバッジをつけているんですね。打ち合わせばかりしているイメージがあったので意外でした。
沼田:そんなことないですよ(笑)。ユナイテッドアローズでは、お客様への最終プレゼンテーションの場である売場というものをとても大切にしていますし、「EN ROUTE」にしても、時間があればなるべく現場に足を向けて、売り場に立つようにしています。僕がいても戦力になるわけではないんですけど(笑)、やっぱり現場にいるということは大切で、それは「EN ROUTE」のチーム全員が意識しているところなんです。
EN ROUTE: enroute.tokyo
The End