今年ブランド設立10年目を迎えたyoshio kubo。ブランドの歴史をデザイナー久保嘉男が語る10のエピソードから紐解く。
4.Movie
もともと僕は映像の仕事をしていきたいと思っていたくらい映像が好きなんです。例えば「タクシードライバー」でデ・ニーロが着ているジャケットを見て凄くカッコ良いと感じたり、ファッション雑誌よりも映画を見て洋服が欲しくなるタイプだったし、ブランドを始めてからも映像で自分の洋服をプレゼンテーションしたいという思いがありました。ファーストコレクションでは、僕がアメリカにいた頃のルームメイトで、いまはローマで映像を作っている友人を日本に呼んで、僕の考えたシナリオで撮影をしましたし、その次のシーズンでは、WOWという映像制作会社にいる中路琢磨と言う凄い才能と知り合い、彼と一緒に表現を考えていきました。とにかく当時は誰もやっていない映像プレゼンテーションをしたいという思いで取り組んでいましたね。
5.Presentation
当時は、プレゼンテーション用の映像をDVDに焼いて、各所に送リ付けていたんですけど、果たして何人くらいの人が見てくれていたのかはわかりません。いま振り返ってみると、知らないブランドからいきなり送られてきたDVDを全部見るほどみんな暇じゃないだろうし、もっと良い方法があったのかなとも思います。ブランドを始めてからの数シーズンは、クリエーションの部分よりも、みんながこっちを向いてくれるためのアピールの仕方について悩んでいた時期で、そのなかで思いついたのが、展示会の前にカタログ用のルックを撮影するというやり方でした。それを、わざわざページを開かなくてもすぐに目に入るように、開いた状態の厚紙に印刷して送ったんですが、これを始めてから一気に展示会に人が来てくれるようになりました。ブランドの戦略やアピールの仕方ということについて人生で一番考えたこの頃は、凄く大切な時期だったと思います。
yoshiokuboをスタートしてから、しばらくはメンズ・レディス両方作ってきたのですが、レディスに関しては自分が本当に何をしたいのかという部分が突き詰められていなかったんですね。もともと僕は「SEX AND THE CITY」のようなライフスタイルが好きだったし、オートクチュールをやっていたこともあって、普段から日本でもドレスを着るという習慣があればいいなと思っていました。そこで、07 S/Sシーズンからドレスを主軸にしたmuller of yoshiokuboを別ブランドとしてスタートし、それからはメンズのyoshio kuboは男臭く、レディスのmullerは女性になった気分で洋服を作るという具合に、自分の中で両者の棲み分けができるようになりました。